介護を受ける人も介護をする人も、それぞれに悩み事や不安なことがあります。訪問介護事業所をベースにその両者に対して地域の中でどのようにかかわり、寄り添っていくか。マミー・ケアサービス有限会社の取り組みのご紹介です。
マミー・ケアサービス有限会社 代表取締役 訪問介護事業所管理者兼サービス提供責任者
齊藤まみ
ヘルパー事業所に従事しながら、介護者などの心配や不安ごとに寄り添う。介護にかかわる方が少しでも笑顔になれればという思いで既存の業務にとらわれることなく様々な活動を展開。
※所属等はヒアリング当時のものです
現在、どのような活動をしておりますか
訪問介護事業所ですので基本的にはヘルパーとしてご自宅にお邪魔をして入浴、食事、排せつ、掃除等日常生活に必要な支援をしております。対象は障がい者の方や要介護・要支援認定を所持している高齢者です。これらのことが、訪問介護事業として主な生業になります。
一方で、介護をしている介護者と言われている方々のサポートもできないかと感じており取り組みをしています。
介護保険制度ができる前は、介護というのは身内や家庭の中で解決されるべきことでした。しかし、介護保険制度が施行後年々、家族構成や介護者の就労状況等いわゆる社会情勢が変化をしていき、介護者自身がとても生活しづらい世の中になっているのを感じています。介護をきっかけに何か世の中に対して後ろ向きや申し訳ない思いを感じながら介護しており、徐々に孤立していくように感じ取れます。ただでさえ介護は精神的にも・肉体的にも辛いのにそれに対して寛容的になりきれないと感じております。介護を受けるご本人も、介護をしているご家族にとっても精神的にゆとりが持てるよう何とか打開できないものかと思い、取り組み始めたのが「氣まま」という居場所づくりです。
「氣まま」は気兼ねなく、あなたがあなたのままでいれる場所をコンセプトに月1回、10:30-15:00の間開催しております。昼食も可能で昼食付では500円、昼食をとらず参加だけであれば300円をいいただいて活動をしています。特別何かをするということ意図的にせず、たまにボランティアの民謡や、三味線、アロマづくり等実施することもあります。「氣まま」に来られる方は障がいをもったお子さんやそのお母さんやお父さん、介護をしている嫁と、千差万別です。「氣まま」では参加者の悩みなどは特に詮索せず、悩みや生活のしづらさを感じている方の居場所づくりから始めていければという思いで活動をスタートさせました。
そしてこの度、介護に関して悩みを持っている方同士でオンライン形式で集い、介護の悩み事等話し合える場を試みました。在宅介護では誰かが教えてくれるということがなく、悩みや不安を持ちながら介護にあたっているのが現状です。自分の介護のやり方や考え方が正しいかどうかの確認であったり、今後在宅介護に向け準備しなくてはいけないことの確認という効果が見込めたと思います。
このように、ヘルパーとしての在宅介護の直接的な支援から、介護者の居場所づくり、介護者の具体的な相談の提供など活動展開していきました。このような活動を通じて少しでも介護がしやすい、生きやすい地域が作っていければと考えております。
訪問介護事業所として起業したきっかけを教えてください
起業する以前もとあるヘルパー事業所で働いていました。そもそもヘルパー含め介護の仕事を行うきっかけとなったのが、母親もヘルパーであったということもあり介護・福祉というのが自分にとって身近な存在で、違和感がなくヘルパーとして従事をしていました。
起業をして、自身で訪問介護支援事業所を立ち上げようとしたきっかけが平成16年10月に起きた、中越大震災でした。発生当時、他事業所の応援としてとある利用者宅にお邪魔をいたしました。被災する前は、例えばオムツ交換ではお湯が使えて当たり前という状況でしたが、そのようなインフラも遮断されオムツ交換もままならないという状況でした。また余震も続いていることから、いつ家屋倒壊しても不思議ではない状況で介助にあたっているのを覚えております。「死」をリアルに感じた瞬間でもありました。そのような経験を経て「本当に自分がしたいことをしよう」と思ったのが起業をして訪問介護事業所を立ち上げるきっかけです。
起業をして暫くは、自分の仕事をより多く抱えることにやりがいを感じていました。しかし4年ぐらい前に病気で入院するということがありました。今まで自分が抱えていた仕事を委ねることを余儀なくされた出来事であり、とてもストレスを感じる時期がありました。それからは仕事の仕方を変えることで自分自身が「生きやすく」なるように感じています。誰かと幸せやプロセス、成功も失敗も体験を分かち合うことで、周りの存在も生きてきますし、選択肢のふり幅が増えることで支援に対しても良い結果が出やすくなったと感じております。震災や入院等自分にとっての大きな出来事が節目となり今の私が形成されていると感じております。
今後の目標や展開を教えてください
福祉サービスっぽくない福祉をしていきたいと考えています。入浴ができない、食事ができない方には、それができるようお手伝いをすることは当然必要です。しかし、それのみに終始することは必ずしもその人の幸せに繋がるかというとそうではありません。ヘルパーという仕事は見方を変えると、見ず知らずの人に自宅の冷蔵庫や風呂を見られ勝手場を使われと、一歩間違えれば尊厳を蔑ろにしてしまう職業です。尊厳を守るという軸足で考えた時、必ずしも入浴支援、排せつ支援こそが一番重要とは限りません。自分が必要とされている、認められているということを感じてもらうことがその人の尊厳につながるのではないかと考えております。
ある日、認知症で一人暮らしの高齢者が食べたみかんの皮を近所の河川敷に捨てて地域住民が困っているのでゴミ出し支援をしてくれという依頼がありました。認知症の進行によりごみの分別がうまくできないようです。ヘルパーを利用し、ヘルパーがゴミを分別して捨てたら事態は解決すると思っておりました。しかし一向にみかんの皮が河川敷から消えることはなく、地域住民は不穏を募らせる事態に陥った事例がありました。何とか状況を変えないといけないと思い考えあぐねた結果、みかんの皮は漢方づくりに役立てたいから捨てないで用意した箱に入れといてほしいとご本人に依頼する、ということを試みました。みかんのごみは捨てないで、みかんは買わないでと排他的にかかわるのではなく、ご本人のプラスになるよう関わりを心がけていきたいと考えております。そのことは高齢者や障がい者に対してのみではなく、介護に対して不安や心配を抱えている介護者に対しても同じような心持ちで関わっていければと考えております。