若年性認知症や引きこもり、うつ病等をきっかけとし不本意にも社会から切り離された状態で生活をせざる得ない方々がいらっしゃいます。一度ドロップアウトしたとしても、誰かの、何かの役に立つという、自分なりの目的を見出しては果たし社会との接点を作っていける場所があります。今回はビニールハウスを活用し、そのような場所を提供している岩崎典子さんへのインタビューです。
marugo-to(まるごーと):代表
岩崎典子
ヘルパー、ケアマネージャーの職歴を経て、現在の活動に至る。今までの職歴を通じ、本人にとって、地域にとって本当に必要なものは無いかを模索しながら活動を展開。
※所属等はヒアリング当時のものです
マルゴートではどのような取り組みをされていますか
「大人の秘密基地」をフィロソフィーとして、病気や介護を理由にあきらめることなく、
自分が活躍できる場所、自分のやりたいことが実現できる場所、を提供しております。参加者は、高齢者の方はじめ、若年性認知症、生きづらさを抱えた青年と千差万別で、それぞれの人がそれぞれの目的を見つけ参加しに来ております。参加者がそれぞれ自分の目的を見つけて参加してきてくれるというのは、例えば、一度社会で挫折を味わった方が、このビニールハウスでの場所で自分の役割を見つけてはボランティアとして毎週参加してくる方もいます。最終的には再就職を果たしこのビニールハウスを卒業しました。一方シニア男性が家ではすることがないということで、ここでの切り盛りを生きがいとしている方もいます。目的を自分たちで見つけては役割を果たして社会の接点として機能しております。
ビニールハウスにしたというのも、負の財産を作ってはいけないと思い既存にある資源を有効活用しながら活動を開始しようとおもっておりました。春先にしか使わないビニールハウスを活動拠点としたちょっと変わった居場所となっております。
2018年からスタートして、4年が経過しようとしておりますが、いつでも順風満帆ではありませんでした。やはり最近の大きな課題では新型コロナウイルス感染症です。2020年3月から約3か月この活動の中止が余儀なくされた時期がありました。ある特定の空間に複数人が集う場所ですから、当時を振り返れば仕方がなかった事と思います。今でも忘れられないのが、50歳代で若年性認知症と診断された女性の方が、毎回参加していました。いつも刺し子をしていた方が中止期間を経て再開を果たしと時に、刺し子ができないほどの状態になってしまったというエピソードがありました。毎週一回何気なく集まっている場所ではありますが、参加者の方にとってはかけがえのない場になっているのだと確信をした瞬間でもありました。
だれでも活躍できる居場所をつくってきましたが、自分たちの取り組みは、誰かに必要とされているという実感があり、私にパワーをくれました。最終的には私も含め皆の自己実現の場でもあるのだと実感しました。
岩崎さんにとってどのような違和感があり、マルゴート設立に至ったのですか
私もヘルパーやケアマネ―ジャーという職業を経験をしてきましたが、介護サービスの世界観に違和感があったのがベースにあります。障がい者は障がい者のみの空間、高齢者は高齢者のみの空間となっており、決められたことをして一日過ごしていくことに違和感を感じておりました。もちろん、従来の介護サービスが社会的にもとても重要であることが前提です。お風呂に入れないから、トイレに行けないから、病気だから公的保険サービスを受けるという既定路線に入る前にもっと人の可能性を発揮でき、イキイキできる空間を作りたいと考えていました。そして何よりも、自分がここにいてもいいと思えるような安心感で空間が満たされるように、お互い様と言い合える相互関係がこのビニールハウスでできればと考えておりました。
実際に設立しようとしたきっかけは、若年性認知症と診断された山ちゃんとその奥様の存在でした。その奥さんに言われたのが「居場所がない、主人が主人らしくいられる場所を作って欲しい」という一言でした。特に何をするわけでもなく、ふっと立ち寄って、自分でも何かできるかもしれない、そのように思ってもらえるような空間、居場所になればと思い設立にいたりました。
今後の展望を教えてください
課題の一つになっているのが、継続した活動ができるような運営資金を整えることとだと思っております。そのために社会的な位置づけとして何かしらの法人格を取得することは必要と考えております。まるごーとの活動自体の展望として、大きく2つあります。一つ目が今後農業と福祉をベースにその中での様々な知恵が就労や障がい福祉、保育などに波及できるよう進化していければと思っております。一度、病気等をきっかけにリタイアした方が、実際に再び社会に復帰した方もいらっしゃいます。自分にも役割があり、必要としてくれる人がいる・・・。このような幸せの体験をより多くの方と共有できるために、様々な知恵が集結・波及する具体を作っていきたいと考えております。二つ目が、このビニールハウスの規模をどんどん大きくして行こうとは考えておりません。大きくすることではなく、小さくてもいいから、いろいろなところで展開ができればと考えております。様々な地域で同様のことが起きていると思います。その地域にこの取り組みを届けて幸せをより多くの人に共有できればと考えております。