高齢化が急速に進展した現在、地域に密着した病院や診療所の役割が、在宅医療においてとても重要な時代となった。今回は、新潟市西蒲区、新潟市内でも最も高齢化率が高い地域での在宅医療の取り組みを伺った。
西蒲中央病院 理事長
江部和人
東海大学医学部卒業後、消化器内科医として病院勤務。その後、新潟大学大学院進学を経て、2004年西蒲中央病院理事長に就任。病院理念に「人と地域にやさしいオアシスを目指します」と掲げ、地域密着の病院運営を実践する。2023年4月には、在宅療養を応援する目的に西蒲区の医療・介護・行政などの有志関係者が集まり設立された「西蒲区在宅医療ネットワークの集い」の代表を務める。
※所属等はヒアリング当時のものです
人口構造の変化に伴い病院運営に変化を感じておられますか。
急速な高齢化に伴い、認知症疾患をもった患者さん、内科の慢性疾患を複数もつ高齢の患者さんが増えていると実感しています。その中で、開院当初は急性期医療の機能も併せ持つ病院運営を行ってきましたが、現在では、医療の内容がより全人的な傾向に変化してきています。また、少し前までは、どんなに軽症な状態であっても「大病院に紹介してほしい」という声も聞かれました。しかし、近年は、地域の開業医の先生方からのご紹介、または、本人・家族の声からも、「利便性の良い身近な病院で医療を受けたい」というニーズが高まっていると感じます。開業医の先生方からのご紹介(入院依頼)は多様になってきております。肺炎、心不全、骨折等はもちろんですが、「ご自宅で看取りたい」と考えていたご家族が、「やはり病院で」とお考えが変わったので入院依頼をいただく、という例もございます。時代のニーズもありますが、その時々の患者・家族のご意向にも、細やかに対応できる病院を目指しております。さまざまな側面からの啓発効果もありますし、時代の変化を感じます。
基本的な入院治療を行い、リハビリ、退院支援をして、可能な方は在宅復帰を目指すという形を提供しております。ただし、手術や特別な処置等、当院では対応出来ない事もあります。そういった際には、高度急性期病院と連携し、患者さんに適切な医療を受けていただいております。
西蒲区でかかりつけ医の先生方と共に在宅医療を実践していく今のかたちはどのような流れからでしょうか。
地域医療への熱いまなざしを持った多くの先輩が、西蒲区の開業医の先生方におられます。その先生方との関わりの中で、多くのことを学びました。その良好な関係性の中から、当院が在宅医療において貢献できるのではないかと考える、二つの体制があります。1つ目は、開業医の先生方が診療されている患者さんに、何かあったら当院がいつでも入院を受け入れる、「バックアップシステム」です。2つ目は、当院の医師が「地域に出向く医療」です。
1つ目のバックアップシステムについては、基本的に当院は対応可能な紹介患者さんの受け入れをお断りしませんが、夜間・休日等、マンパワーの少ない時間帯には対応できないことも生じます。ですが、事前に情報をいただいている患者さんに関しては、必ずお受けしております。地域の10人ほどの先生方からご紹介を頂き、20名程度の患者さんの登録があります。
2つ目の当院の医師が地域に出向く医療、訪問診療については、地域の開業医の先生方からの多くの学びがあったからこそ実現できたものです。これまで自分が診てきた患者さんが高齢等の理由から通院できなくなった場合、その患者さんのところへ出向く訪問診療を行うことは、この地では自然な流れです。幸い院内の医師からも賛同が得られ、私と同様に訪問診療を行っております。自宅へ伺うと、入院していた時とは違う、本来の「生活者としての姿」を拝見でき、その方の大切にしていること、生き方、人生を感じとれます。病院では解り得ない学びがあります。患者さんの想いを聞き、自然な流れで今の形となってきました。
さらに、当院が在宅医療を実現する体制として、上記2つだけではなく、訪問看護師も在宅医療の実現に大きく貢献しております。当院の訪問看護師からの依頼で、「訪問診療を受けたいがどうしよう」という方が、当院の医師につながるという事もあります。このように医療へのアクセスが困難な方へのケアが、訪問看護師の関わりによって実現している例もあり、在宅医療を実現する上では欠かせない存在となっております。
地域に密着した病院のあるべき姿とはどんな姿でしょうか。
患者さん・ご家族、地域の方々が何を必要としているか、この地の風土や慣習を感じ、病院は地域の一員であると認識すること。そして、医療・介護関係者と協働し、病院でなくてはできない役割を果たしていきたいです。この地域には、かかりつけ医の精神を自分に叩き込んでくれた大先輩が多くおられます。その先生方から学んだ多くの事を大切にし、地域の皆さんが、長くこの地で安心して生活していくことのできる運営ができれば幸いです。