生きていくに必要な行為として食事があります。しかしそれは生きていくためだけに行われのではなく、楽しみや文化、生活様式にまで話が及ぶことがあります。意図したものを食べれるという喜びをサポートしていきたい。摂食嚥下機能を向上させる職種に言語聴覚士という職種があります。今回は言語聴覚士に摂食嚥下についての課題、取り組みを伺った
医療法人新成医会 総合リハビリテーションセンター みどり病院
堂井 真理
言語聴覚士の資格を持つ。主に入院患者を「話す」「聞く」のリハビリを実施。また嚥下(飲み込むこと)もリハビリの対象領域の職種であり、疾患治療後の食事支援のサポートを実施している。
※所属等はヒアリング当時のものです
言語聴覚士についての仕事についてご紹介ください
言語聴覚士は病院などの医療現場のほかに、教育現場、介護施設など多岐にわたり活躍のフィールドがあります。言語聴覚士の仕事は、言葉を話すという「言語」に関してと、「聴覚」ですね。そして「摂食嚥下」。が対象です。(リハビリというと一般に手・足と思われますが、言語聴覚士は首から上の仕事って考えると分かりやすいですね。
堂井さんにとって摂食嚥下をサポートする目的はなんですか
食というもの自体が普段我々の生きるための生命維持っていうものがあります。しかし、単なる生命維持という役割だけじゃなくて「食べる」という活動は実は生活環境によってかなり影響されるです。例えば食を囲む雰囲気だったり集まりだったりで,感じ方が変化する。楽しい仲間と一緒に食べれば楽しいって思えるし、1人で食べてれば寂しいし、どんなものを食べているのか気にしないで食べることだってあるだろうし、「食べる」という活動動作自体が文化でもあり私達の気持ちにもかなり影響を与えるものであると考えています。
また、例えば今まで食べたことのない初めての食べ物であったり、話題や流行りの食べ物を頂くなど、食を通じてコミュニケーションが生まれたりします。単なる食べ物ではありますが、そこからいろいろ派生してくるものや繋がりが見えてきたりと奥深いです。(だからサポートする目的は、)「食べ物」を超えた人との繋がりやコミュニケーション活動全体をサポートすることと思っています。
サポートしている中で課題と感じていることはなんですか
脳血管疾患の患者さんでは、例えば後遺症として片麻痺や嚥下機能が麻痺にもなったりします。その障がいを受容しきれていない状態の中では嚥下食での食事を抵抗されることがあります。
また、嚥下食ではペースト食だったりするとなおのこと、ドロドロしています。緑色をしているがこれはほうれん草の緑なのか、海藻の緑なのか食べてみても分からない。器も含めた見た目はすごく大事です。例えば盛りつけの雰囲気や配色とか。「食べる」ことの中には実はそういう楽しみもある。だからプラスチックや無機質な容器に緑色のドロドロした得体の知れない食物が入っていたら「これ、何だろう…よくわからないから食べたくない」と思います。だから、病院の栄養科と一緒に見た目の雰囲気や風味の工夫をしています。食欲をそそるような配食や見た目が担保できるような食事提供もサポートする上では重要な課題となっています。
課題の克服のために心がけていることは何ですか
患者ご本人とご家族とリスクを共有しながらも、患者が選んだ選択をサポート体制ができるようなりたいと思っています。
現在は食べれなくなり、病院で最期を「看取る」ということもあります。病気によって飲み込みの障害が生じ、生命を維持することができなくなるという問題は、飲み込みの機能の限界と人としての尊厳をどう考えるのか非常に大きな問題といえます。
うまくいかないと知っていても何とかして食べる機能を回復してほしいという気持ちと肺炎等になっても良いから、極端に言うと亡くなっても良いから食べる事を選択したいという方もいらっしゃいます。その方の選択なのですが、「生きる」ということと「自分らしく生きたい」という思いの大切さ。ご本人・ご家族・介助者側で意見が異なる状態や後悔することの無いよう心掛けております。患者ごとに症例が違うので、状況は異なりますが、本当にこの方はどのように関わるべきなのかを、チームで考え、ご家族が納得の上で、私たちもそれを共通認識として、対応方針を確認しながら進んでいくことが重要です。それを怠るとチーム内でぎくしゃくしてしまったり、支援チームの思いだけが先行してしまい実は望んでなかったなんていうのは、提供者として避けたいところです。どのような結果であっても最期は家族・チームが納得できるような仕事ができる体制を作っていきたいです。