2025年には5人に1人が認知症になるという推計が出されております。認知症になるのは自分なのか家族なのか。何かしらの形でこの病に関わることとなり、避けては通れない実情が差し迫っております。また、認知症の方のご家族の苦悩が必ずしも十分地域に浸透しているとも限りません。今回は認知症の方のご家族を長年サポートしてきた等々力さんの活動内容をご紹介いたします。
公益社団法人 認知症の人と家族の会 新潟県支部 副代表
等々力 務
ご自身の祖父母の介護をきっかけに認知症の人と家族の会と関わる。当初は本会に入会し支えてもらう立場であった。その活動の趣旨に感銘を受け継続して関り、現在は副代表として会を運営する立場となっている。また、(社)恒慈会 デイサービスセンター優友の管理者も務める。
※所属等はヒアリング当時のものです
認知症の人と家族の会の取り組み内容を教えてください
認知症の人と家族の会では様々な活動をしております。主な活動としては「集い」があります。集いは月に一度、介護者同士が集まり、自身の日々辛さを吐き出したり、逆に他の方の事例に触れ参考となって頂くなど様々な役割があります。また、集い以外にも会報の発行等を通じ認知症の啓発活動や、時には行政に対して提言や要望書提出等の活動を行っております。
私は介護者にはふたつのサポートが必要と考えております。一つは物質的なサポートです。介護保険サービスのような公的保険サービスを活用し、自身が少しでも休んでいただくなど、自分へのご褒美が必要です。二つ目は心理的なサポートです。認知症の人と家族の会での活動意義は、この心理的なサポートが大きいところと考えております。介護者の方が孤立しないで自分達の悩みを打ち明けたりすることでピアカウンセリングのような機能を果たし、メンタルケア、心理的なサポートを実施していくことです。
集いの中で介護者の方々は様々な悩みを打ち明けます。夜中に何度も起き上がったり、外に出歩いたりしてしまうことの体験、便の後始末の大変さ等精神的に強くい追い詰められてしまいます。そのような精神状況の場合ですと、このようにつらい思いをしているのは自分だけと思い込んでしまい閉塞感にも襲われてしまい、希望が見えない状況にも陥ってしまいます。これらの悩みを打ち明け合うことにより心理的なサポートと互いの経験談や介護のノウハウの共有という役割を果たしております。
集いにお越しになるのは何も現在介護をしている方だけではありません。ご本人が亡くなられたり、施設入居され介護を卒業された方もいらっしゃいます。介護を卒業されたという方にも心理的サポートが必要なことがあります。介護を卒業し振り返って考えると、もう少しこのようなことができたのではないかと後悔される方がいたり。突然介護をしなくなることで燃え尽き症候群のような状況になり心療内科に通院し始め、集いに継続的に参加される方もいらっしゃいます。
同じ境遇だからこそ分かり合える。分かり合える同士のつながりが出来たからこそ何とか持ちこたえれる、また明日から頑張れる。一人でもそう思っていただけるよう集いの活動を継続していければと考えております。
等々力さんが認知症の人と家族の会と関わるようになったきっかけを教えてください
実は私もこの会の参加者の一人で集いなどに参加しておりました。私の場合は祖父母の介護をすることがきっかけでこちらの会に参加するようになりました。今振り返ると当時の私は祖父母の認知症の症状に対してものすごく悩み、追い詰められておりました。そこでこの会の集いに参加する事で「自分だけではなかった」と強く勇気づけられた記憶が、今でも鮮明に残っております。
当初は「ぼけ老人を抱える家族の会」という名称でした。2004年に痴呆症から認知症にと名称が変わり、当会の名称も変更いたしました。単純に「認知症を抱える家族の会」とせずに「認知症の人と家族の会」という名称にしたのはある思いが込められております。痴呆症と言われていた当時、痴呆症のイメージとしては迷惑をかける人、すぐに何でも忘れる人、地域のお荷物、のような扱いでした。介護者の孤立を防ぐという意味で当会は存続しておりましたが、「認知症を抱える家族の会」としただけでは肝心の認知症当事者の方への権利が担保されません。認知症の方と家族の両方の権利を様々な偏見から守っていきたい。そう思い今の名称になっています。
今後のビジョン等を教えてください。
純粋に今の活動を継続していきたいと考えております。服薬等の進歩などがありそれこそご本人への対応は変わってくることはあっても、介護者の明日への活力、心理的なサポートは必要と考えております。強いて言えば、新潟市でも集いを複数個所開催できたりとアクセスのしやすさは検討しなくてはいけないかもしれません。
この立場で望むことを申し上げさせていただきます。徘徊シルバーSOSネットワーク等徘徊時の対応インフラはあっても登録業者様にFAXでの送信になっています。一部地域ではメールに切り替える等の運用が始まっております。徘徊は時間の経過とともに生存できる確率が下がっていきます。技術の進歩により早く発見できるような地域になればよいと考えております。
また、介護者を支える手段の一つとして介護保険サービスのご利用があります。そのこと自体は疑いようもない事実ですし私も介護負担の軽減のためにそれをお勧めしております。しかし、元来介護保険はご本人の自立支援を目的としたサービスで家族の支援にフォーカスしたサービスではありません。介護者に向けた公的な支援は皆無に等しい状態です。超少子高齢化を迎えている我が国において安心して生活を送れると軸足を置いた時には介護者への支援も欠かせない要素になっております。介護はご本人と介護者は鏡の状態とよく言われます。ご本人の状態が落ち着いていると、介護者も落ち着いている。逆に介護者が落ち着かない様子はご本人の症状を悪化させる要因にもなったりします。介護の状態でも安全・安心に暮らせる社会のためにはご本人・介護者両方の支援が必要となります。