新潟市認知症疾患医療センターにおける若年性認知症の患者さんのへの支援の難しさや、これからの多面的な連携を視野に入れた若年性認知症支援コーディネーターである川井さんの取り組みをご紹介します。
総合リハビリテーションセンター・みどり病院 認知症疾患医療センター 副センター長
川井紀子
東北福祉大学卒業後、財団法人新潟市福祉公社に入職。その後新潟市社会福祉協議会に転籍。2019年に退職後、医療法人新成医会のみどり病院認知症疾患医療センターで勤務。かかりつけ医をはじめとした関係職種との良質な連携のみならず、社会との連携に積極的に関わり患者支援を行う。
※所属等はヒアリング当時のものです
認知症疾患医療センターの主な役割は何ですか。
センターの主な役割は以下の3つです。まず、専門的な医療や認知症の周辺症状(BPSD)、合併症、精神科医療への鑑別診断を行うことがあります。次に、認知症分野においては、多職種連携を重視し、専門職などの関係機関や市民への啓発と教育を行います。また、患者支援の一環として、公認心理士や相談員を配置し、「もの忘れ外来」全般に関与します。具体的には、診察開始前の受け入れ面接から診察後の非薬物療法の重要性などを、医師と相談員の協力によって支援しています。センターの外来には、かかりつけ医をお持ちの患者さんも多く訪れるため、日常の状況をよく把握している家族やかかりつけ医との連携を重要視しています。
認知症疾患医療センターではどのような支援を提供していますか。
当センターでは、さまざまな事業を展開していますが、特に力を入れているのは若年性認知症への支援体制の強化です。近年、社会的な関心が高まり、メディアの影響もあり、若年性認知症の認知度が上がっています。実際に当院では、年に10〜20件程度の若年性認知症の外来受診や相談を受けています。受診される方の中で多いのは50代の男性であり、仕事でのミスや日常生活の変化をきっかけに受診されることが多いです。本人が自覚し、早い段階で受診することが非常に重要であり、早ければ早いほど対応や支援の幅も広がります。診断後は、絶望感や経済的な不安、家族への思いなど、さまざまな問題が浮かび上がります。
具体的な事例としては、62歳の女性で無職のアルツハイマー型認知症の患者さんがいます。この患者さんは常に不安を感じ、ご主人と離れることができず、見えなくなると探し回ることもあります。そのため、ご主人の職場と相談し、在宅ワークに切り替えることができました。このようなケースでは、社会的な孤立を避けるためにデイサービスなどの選択肢もありますが、親世代のいる施設になじむことができるのか不明です。私たちは、担当のケアマネジャーと協力して、さまざまな視点から支援策を模索しています。
若年性認知症患者への支援には、既存の制度やサービスだけでなく、多角的な支援が必要であることを再認識しています。
若年性認知症の方が生きやすくなるために心がけていることは何ですか。
現役世代の多い若年性認知症患者さんへの支援には、企業との連携が不可欠です。雇用保険や失業保険などを活用することが重要です。これまで行ってきた企業へのアプローチは、一般市民への啓発を主目的としておりました。しかし、それだけでなく、若年性認知症患者さんが働いている企業に勤務する家族への啓発も重要です。ご家族の方には、早めの相談や受診を検討していただくことをおすすめします。
また、働ける環境を整備するための支援も重要です。医療の関与により、雇用側も患者さんの症状を理解し、具体的な就労の継続に貢献できると考えています。新潟市で行われている在宅医療と介護の連携事業とも協力しながら、幅広い視点で支援を継続していきたいと思います。